大判例

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名古屋地方裁判所 昭和43年(わ)1271号 判決

被告人

鬼頭康男

外一名

主文

被告人両名をそれぞれ罰金五千円に処する。

被告人両名において右罰金を完納することができないときは、金五百円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。

被告人両名に対し、公職選挙法第二五二条第一項の選挙権および被選挙権を有しない期間をそれぞれ二年に短縮する。

訴訟費用中証人原田四郎、同加藤君代、同堀江英子、同上岡光恵、同永山ミエ子、同鈴木智代、同利根佐代子、同天谷克之、同片桐秀子、同佐藤久江、同原田弥枝子、同松尾啓一、同浅井照利、同山田昌勝および同筧久江にそれぞれ支給した分は被告人鬼頭康男の負担、証人小椋ふみ子、同榊原好美、同須田伊都子、同永井照子、同安田鎌一、同加藤喜美子、同鵜川時子、同森二三子、同中野晃、同加藤歌寿、同川合靖子および同加藤ミツヨにそれぞれ支給した分は被告人藤井ヒロ子の負担並びに証人奥原多真子、同深谷銅作および同奥平康弘にそれぞれ支給した分は被告人両名の各二分の一宛の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人鬼頭康男は名古屋市立港南中学校教諭、同藤井ヒロ子は同市立小碓小学校教諭であるが、被告人両名はいずれも昭和四三年七月七日施行の第八回参議院議員通常選挙に際し全国区から立候補した岩間正男および愛知県地方区から立候補した浅井美雄の両名またはその一名に投票を得させる目的で、

一、被告人鬼頭康男は、別紙一覧表(一)のとおり、同年六月二日ころから同年七月三日ころまでの間、前後一一回にわたり同選挙区の選挙人で同被告人が現に担任している学級の生徒の父母である山田昌勝ほか一〇名の居宅を戸々に訪問し、

二、被告人藤井ヒロ子は、別紙一覧表(二)のとおり同年六月九日ころから同年六月三〇日ころまでの間、前後八回にわたり同選挙区の選挙人で同被告人が現に担任している児童または前年度に担任した学級の児童で現に同被告人が勤務する名古屋市立小碓小学校に通学している児童の父母である小椋ふみ子ほか七名の居宅を戸々に訪問し、

もつて戸別訪問をすると共に、同人らに対し、右候補者らに投票するよう働きかけ、もつて児童または生徒に対する教育上の地位を利用して選挙運動をしたものである。

(証拠の標目)

被告人鬼頭康男につき

一、証人山田昌勝に対する受命裁判官の尋問調書

一、第九回公判調書中の証人片桐秀子の供述記載部分

一、第六回公判調書中の証人加藤君代の供述記載部分および同人の検察官に対する供述調書

一、第六回公判調書中の証人原田四郎の供述記載部分および同人の検察官に対する供述調書

一、第七回公判調書中の証人堀江英子および上岡光恵の各供述記載部分

一、第八回公判調書中の証人永山ミエ子の供述記載部分および同人の検察官に対する供述調書

一、第八回公判調書中の証人鈴木智代、同利根佐代子および同天谷克之の各供述記載部分

一、第九回公判調書中の証人佐藤久江の供述記載部分および同人の検察官に対する供述調書

一、中央選挙管理会委員長および愛知県選挙管理委員会委員長各作成の「捜査関係事項照会書について(回答)」と題する各書面

一、名古屋市熱田区選挙管理委員会委員長作成の「選挙人名簿登録の有無について(回答)」と題する書面

一、名古屋市教育委員会作成の辞令謄本

一、押収に係る氏名カード用紙二枚(昭和四四年押第一三二号の一)、赤旗日曜版一部(同押号の二)、氏名カード用紙二枚(同押号の三)

被告人藤井ヒロ子につき

一、併合前の被告人藤井ヒロ子に対する第五回公判調書中の証人小椋ふみ子の供述記載部分

一、同第六回公判調書中の証人榊原好美および同須田伊都子の各供述記載部分

一、同第七回公判調書中の証人永井照子および同安田鎌一の各供述記載部分

一、同第八回公判調書中の証人加藤喜美子、同鵜川時子および同森二三子の各供述記載部分

一、名古屋市教育委員会作成の「名古屋市立小碓小学校教諭藤井ヒロ子についての照会について」と題する書面

一、中央選挙管理会委員長(謄本)および愛知県選挙管理委員会委員長各作成の「捜査関係事項照会書について(回答)」と題する各書面

一、名古屋市港区選挙管理委員会委員長作成の「選挙人名簿登録の有無について(回答)」と題する書面

一、押収に係る「教職員の選挙運動について」と題する文書一部(昭和四四年押第四五号の一)、手帳一冊(同押号の二)、メモ一枚(同押号の三)、赤旗一部(同押号の六)

(法令の適用)

被告人両名の判示戸別訪問の各所為はいずれも包括して公職選拳法第一三八条第一項、第二三九条第三号に該当し、判示教育者の地位利用の各所為はいずれも包括して同法一三七条、第二三九条第一号に該当するが、以上は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条によりいずれも犯情の重い戸別訪問の罪の刑で処断することとし、情状を考えるに被告人両名はかねがね児童の教育に熱心でその職務を忠実に行つていたこと、その人柄も真面目で、父兄の信望も厚かつたこと、本件は組織的に行なわれたものではなく、その戸別訪問先はそれほど多くなく、しかも訪問先における面接の態様も買収利害誘導等の選挙の適正を直接に害するいわゆる実質犯に結びつくものではなく、被訪問者に与える迷惑の程度も少なかつたこと等諸般の事情に鑑み、所定刑中いずれも罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で被告人両名をそれぞれ罰金五千円に処し、被告人両名において右の罰金を完納することができないときは、同法第一八条により金五百円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置することとし、公職選挙法第二五二条第四項により同条第一項の選挙権および被選挙権を有しない期間を二年間に短縮し、訴訟費用につき刑事訴訟法第一八一条第一項本文により主文のとおり被告人両名に負担させることとする。

(本件公訴事実中有罪部分以外の事実について)

本件公訴事実中有罪と確定した部分を除くその余の事実の要旨は、

被告人鬼頭康男は判示中学校教諭であるが判示選挙に立候補した岩間正男、浅井美雄両名の投票を得させる目的で昭和四三年六月下旬ころ同被告人が担任している学級の生徒の父兄である名古屋市港区稲永新田字つ九〇六番地東稲永荘I一二号室谷千代子方および同年七月初ころ同様被告人が担任している学級の生徒の父兄である同区中川本町六丁目一番地桑山やちゑ方を戸々に訪問し、同人等に対し右候補者に投票するよう依頼し、もつて戸別訪問をすると共に、生徒に対する教育上の地位を利用して選挙運動をしたものである、というのである。

而して証人室谷千代子の第九回公判調書の供述記載部分によると昭和四三年六月下旬午後五時ころ同人が買物に行くため右自宅玄関を出て一メートル位行つた四つ角の近くでたまたま通行中の被告人鬼頭康男に出あい、子供の事について一寸立ち話をかわしてそのまま別れたものであることを認めることができるが、同被告人のかかる所為は何ら当該構成要件に該当するものではないし、その他検察官主張の如き戸別訪問がなされたとの証拠は全く存しない。また証人桑山やちゑの第九回公判調書中の供述記載部分によると同年五月初ころか七月初ころ同被告人が友人一名と共に同証人方を訪問し、その際同被告人が現に担任している同人の子供の事について話があつた後たまたま同証人方の塀の所に判示岩間正男のポスターが貼つてあつたところから、ついでに選挙の話になつたことを認めることができるけれども同供述によれば、同被告人は同人方を同年春にも家庭訪問で訪れたことがあり、又この二度目のときも子供の話が中心で、選挙の話は右ポスターの件にからんでついでにふれられたものであり、かつ同証人としても終始家庭訪問だと思つていたということが認められ、以上の事実から判断するに、当該訪問は純然たる家庭訪問であつたものと認める余地があり、むしろその際に被告人に投票依頼の目的があつたものとは未だ認め難いといわざるをえない。もつとも右供述記載によると「(検察官の問)そのとき(主人が途中で出て来たとき)先生が共産党のこと(共産党の人にお願いできませんか)、を口にされたという記憶ですか。(答)はい。ほんの一言か二言、言われたんじやないですか、お父さんが話をしてるときに私は中にはいつていましたのではつきりそこはわかりません」「(検察官の問)先生の言葉として、全国区では岩間さん、地方区では浅井さんを頼みたいがよろしくお願いしますというふうに述べたように(調書に)書いてありますが、この点はどうですか、(答)私は聞きません、ただ先生が帰つてからお父さんが、ちよつとそんな話をされたなと聞いたんです。」との部分があるけれども同人の主人と同被告人との会話時間はほんの二、三分のものであつたということであり、しかもその会話の内容についての右供述は、いずれも伝聞によるものであり内容も必ずしも明確とはいえないから、これをもつて右目的の存在を証明するに十分であるということができない。又家庭訪問をするのに、連れを一人伴つて行つたということは、少々不自然にも思えるが、そこから右目的があつたとまで飛躍して推測することはできない。

結局右各公訴事実については証明が十分でないといわざるを得ないが、右各事実は判示有罪と認定した事実と包括一罪の関係にあるものとして起訴されたものであるから、とくに主文において無罪の言渡をしないこととする。

(弁護人らの主張に対する判断)

一、被告人両名は民主教育を行なうため、重要な教育活動である家庭訪問をしたのであつて、その際たまたま政治、選挙の話がでてもこれをもつて戸別訪問および教育者の地位利用に問擬することは許されない、との主張について

公職選挙法第一三七条および第一三八条は投票を得させる目的をもつて戸別訪問し、あるいは教育者の地位を利用して選挙運動をすることを禁止しているものであり、たとえ行為の際同時に他の目的が併存していたことが認められたとしても、そのことから直ちに右構成要件が充足されなくなるものと解すべきではない。而して本件においては前掲各証拠によれば、被告人両名はいずれも家庭訪問に藉口して、実のところは専ら判示各候補者に投票を得させる目的をもつて戸々に訪問したものであることを認めることができるし、更に百歩譲つて、仮に弁護人ら主張のように被告人両名において家庭訪問の目的があつたとしても、それが主たるもので投票を得させる目的はほとんど無きに等しいものであつたと認めることは到底できない。よつてこの点についての弁護人らの右主張は採用できない。

なお、家庭訪問が非常に重要な教育活動であることは当裁判所もこれを認めるに吝かではないが、選挙期間中に心して選挙のことにふれずに家庭訪問を行い、教育上の実績を上げることは、大いに可能であると考えるので、本件をもつて弁護人のいう如く、民主教育の抑圧であるとみることはできない。

二、公職選挙法第一三八条は憲法第二一条に違反する違憲の規定であるとの主張について

弁護人らは「表現の自由は憲法上最も重要な基本的人権の一として保障されているだけでなく、それが選挙の過程において行使されるときは民主政治の基礎である参政権の行使としての性格をも有しているから、このような権利を合憲的に制限するにはこれが制限されることの重みに優先する重大なかつ、合理的な弊害の除去を図るものでなければならないところ、戸別訪問による弊害はいずれもこのような重大さにかけるばかりでなく、国家権力によりその弊害を除去すべき合理性にも欠け、結局合憲性を肯定するに足る理由を欠く」と主張する。

しかしながら、公職選挙法は、公職選挙が選挙人の自由に表明した意思によつて公明、かつ、適正に行なわれることを確保するにあたり、過去の経験に鑑み、選挙人の居宅その他一般公衆の目のとどかない場所で選挙人と直接対面して投票依頼等を行なう戸別訪問は買収、威迫、利害誘導等選挙の自由公正を害する犯罪の温床となり易く、あるいは義理情実等の不合理な要素により影響され選挙人の自由に表明した意思による投票が確保され難く、また過当な競争を招き、その結果居宅や勤務先に頻繁に訪問を受けることにより家事その他業務に多大の迷惑がかかり私生活の平穏も害されることになるところからこれを全面的に禁止したものであるところ、憲法第二一条といえども絶対無制限の表現の自由を保障しているものではなく、公共の福祉のために、その時、所、方法等につき合理的制限がおのずから存するところであり、右の如き弊害を除去し、もつて公共の福祉を確保するために戸別訪問を禁止したとしても、それは右合理的制限のわく内にあるものであつて、憲法第二一条に違反しないことは最高裁判所の確立した判例(昭和二五年九月二七日大法廷判決、刑集四巻九号一七九九頁昭和三〇年四月六日大法廷判決刑集九巻四号八一九頁昭和四四年四月二三日大法廷判決集二三巻四号二三五頁参照)であり、当裁判所は現在の社会的状況をみても右判例を変更しなければならない特段の事情があるとは認め難いから、弁護人らの右主張は採用しない。

三、公職選挙法第一三七条は犯罪構成要件が不明確であるから憲法第三一条に違反するだけでなく、選挙過程において選挙民に対して有形無形の影響力を及ぼす社会的関係は他にも多数あるのに、そのうち教員の地位利用による関係のみを規制の対象にしているのは合理的な理由なく差別をすることとなり憲法第一四条に違反する違憲の規定である、との主張について

選挙においては、雇用関係、宗教関係等の種々の社会関係による影響力を利用した選挙運動が行なわれ、選挙人はそのような選挙運動による影響を受けながら自由な意思を形成し、それによつて、投票を行なつていることは所論のとおりである。しかし公職選挙法は一方において所期の目的を達成するにあたり、このような種々の影響力を利用した選挙運動のうちでも殊に教育者の児童、生徒および学生に対する教育上の地位を利用してなされる選挙運動は、選挙人の義理人情等の不合理な感情に対して不当に強く影響を与えることとなり選挙人はこれらの不合理な感情に従つて投票するようにしむけられる結果、合理的に形成された自由な意思の表明としての投票が確保し難いことに着目するとともに、又他方において教育基本法第六条第二項で「法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であつて、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない」と規定し、更に同法第八条第二項において「法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」と規定している趣旨に則り、教育者がその地位を利用して選挙運動をすることは同法の基本的理念に反し甚しく適当でないということも合わせて考慮した上で制定されたものであると解される。

もつとも公職選挙法第一三七条の前身と目することのできる衆議院選挙法第九六条は「何人ト雖学校ノ児童、生徒及学生ニシテ年齢二十年未満ノモノニ対スル特殊ノ関係アル地位ヲ利用シテ選挙運動ヲ為スコトヲ得ズ」と規定し、参議院選挙法第七六条もまた同趣旨の規定をしており、これらの規定については、いまだ選挙権を有しない幼い者達を選挙運動に利用していた弊害を除去することに制定の根拠があつたと一般に解されていたところであるが公職選挙法第一三七条は右規定に比し行為の主体を教育者に限定し、児童、生徒および学生の年齢制限を撤廃したものであるから、従前の規定とは性格が本質的に異なつたものと解さざるを得ず、これに公職選挙法第一条の目的規定および他の条項を綜合して考慮すればその規定の趣旨は前述のところにあると解するのを相当とする。

而して公職選挙法第一三七条の本旨を右の如く解するならば、同条の「教育上の地位を利用して」という文言の意味するところもおのずから限定的に解釈され、およそ教育者である以上抽象的、精神的な影響力を有するから選挙運動をすれば須くこれに該るというのではなく生徒に対する成績評価権や懲戒権等、教育者として有する具体的な権限に基く影響力を不当に利用して選挙人の義理人情に働きかけるといつた実質を具えた場合のみ(ちなみに本件では正にかかる実質が認められる)を指示するものと解され、かく解する限り同条の犯罪構成要件が弁護人の主張する如く不明確広範にすぎ憲法第三一条に反するものであるということはできない。又同条の本旨を右の如く解する限り、教育者を他と区別して取り扱つている点についても相当の合理的な根拠が認められるものと思料するので、その立法政策上の妥当性の問題はさておき同条が教育者に対して憲法第一四条に定める法の下の平等の精神にもとる不当な差別を設けた違憲のものであるということもできない。よつてこの点に関する弁護人らの主張も採ることはできない。

四、公訴権乱用の主張について

弁護人らは「本件起訴は違憲の規定である公職選挙法第一三七条および第一三八条を適用してなされたものであるから違憲の起訴であり、また本件起訴は共産党弾圧、民主教育弾圧の目的のもとになされたものであるから、憲法第一四条、第三一条に違反する違憲の起訴であり、かつ、検察官に許された起訴裁量基準を逸脱した違法の起訴である。従つて本件起訴は刑事訴訟法第三三八条第四号により公訴棄却されるべきである」と主張する。

而して刑事訴訟法は起訴独占主義および起訴便宜主義を規定し、起訴するかしないかを国家訴追機関である検察官の健全な裁量に委ねているが、検察官が右裁量権に基づいて公訴権を行使するに際しては、このような公訴権の行使も国家権力作用の一であるからこれに関する憲法その他の法令に従うことを要することはもちろん、起訴便宜主義が設けられた趣旨にのつとつて誠実に行なわなければならず、いやしくも不法不当な目的のもとに起訴裁量基準を逸脱し権利乱用にわたるようなことがあつてはならないことは刑事訴訟法第一条、同規則第一条をまつまでもなく当然のことである。そしてこのような公訴権を適正に行使すべきことは単に検察官の国法上、職務上の義務に止まらず検察官が訴訟法上一方の当事者たる地位を有することに基づく訴訟法上の義務でもある。

もし、検察官がこのような義務に反し、裁量権の行使を著しく誤り、起訴裁量基準を逸脱し、権利乱用にわたつたことが明白であるときは、このような起訴は刑事訴訟法に反するだけではなく憲法第一四条第三一条にも違反することにもなり、そのような起訴に対しては到底訴訟において起訴本来の法律上の効果を与えるわけにはいかず、結局検察官のかかる起訴は訴訟法上の義務に違反するものとして、刑事訴訟法第三三八条第四号により公訴棄却されねばならない。

そしてこのような公訴権の適正な行使は訴訟条件の一であるから、訴訟条件の挙証責任に関する一般論に従つて検察官にその点に関する挙証責任があることになる。しかし一般に公訴の提起が起訴裁量基準に従つて適正に行なわれたことは事実上推定されるから、被告人側においてそれを争うときには右の推定を破るに足る反証をなすことを要するものと解される。

ところで証拠によれば愛知県警及び名古屋北署は判示選挙の告示された二日後名古屋市内の市邨学園高蔵女子商高において各クラスの担任教師から全国区、石原慎太郎候補者の名前と写真を刷り込んだチラシが全生徒に配布された事実を認め、これが公職選挙法違反(教育者の地位利用、脱法文書配布)にあたるとして同学園の学園長と管理部長とを書類送検した事実を認めることができるけれどもこれが果して公職選挙法違反にあたるか否かあたるとしても起訴をするに足りるだけの証拠があつたか否か、又証拠が十分あつたとしても従来の起訴裁量基準からして当然起訴するに値する事案であつたか否かについては、必ずしも明確ではなく、また証人奥原多真子の第一三回公判調書中の供述記載部分には判示選挙の投票日に同証人とその友人は公明党関係者から「月に三、〇〇〇円支払うからぜひ公明党に入れてくれ」と頼まれたことがあつたため、警察にその旨申告したが何らの処置もとられなかつた旨の供述があるけれども、これのみでは事実関係がはつきりしないのみならず、警察でその後事情聴取もしていないところを見るとこの件について送検されたものとは思われないので、これをもつて検察官の公訴権の運用の判断の一資料とすることはできない。而して他に検察官において、本件に比して当然起訴すべき事案をあえて起訴しなかつたとか、殊更に共産党弾圧のため本件のみをとり上げて、他の場合には不起訴にしているような事案であるのに拘らず起訴したとか公訴権の適正な行使を疑わせるに足りる具体的な事実についての主張立証は何らなされていないので、本件においては未だ前述の推定を動かすに足る反証があつたものということはできない。

また公職選挙法第一三七条および第一三八条の各規定が憲法に違反しないことは先に説示したとおりであるから、右各規定が違憲の規定であることを前提にする弁護人らの右主張は採用しない。

以上の理由により公訴棄却に関する弁護人らの主張はいずれも採用しない。

よつて主文のとおり判決する。

別紙一覧表(一)

〈省略〉

番号   訪問年月日       訪問先         面接者

1  昭和四三年 六月二日ころ 名古屋市港区稲永新田字な一〇一〇番地市営住宅中稲永荘九一号 山田昌勝

2  同月初旬ころ 同区稲永新田か六二一番地丸大産業社宅 片桐秀子

3  同月中旬ころ 同区十一屋三丁目二二五番地 加藤君代

4  同月二三日ころ 同区佐野町二丁目四七番地 原田四郎

〈省略〉

5  同 同区稲永新田字た七三五番地 堀江英子

6  同月下旬ころ 同区稲永町三丁目二二番地港湾宿舎三棟一〇五号 上岡光恵

7  同月二八日ころ 同区稲永新田字つ八八〇番地市営住宅北二四号 永山ミエ子

8  同月下旬ころ 同区十一屋一丁目四一番地 鈴木智代

9  同月半ば過ころ 同区大手町三丁目七番地 利根佐代子

10  同月中 同区稲永新田字ぬ三七九番地 雇用促進事業団アパート三棟三〇四号 天谷克之

11  同年 七月三日ころ 同区錦町二丁目二三番地 佐藤久江

別紙一覧表(二)

〈省略〉

番号   訪問年月日       訪問先         面接者     備考

1  昭和四三年 六月九日ころ 名古屋市港区川間町一丁目三七番地 山田商会社宅二〇九号 小椋ふみ子 現在担任

2  同月一二日ころ 同区港北町二丁目三六番地 榊原好美 昨年担任

3  同月一七日ころ 同区土古町二丁目二一番地 市営住宅土古荘E一七号 須田伊都子 現在担任

〈省略〉

4  同月中旬ころ 同区土古町一丁目五四番地 永井金一 同

5  同月下旬ころ 同区杙場町一丁目一二番地 安田鎌一 同

6  同 同区土古町一丁目三一番地 森二三子 昨年担任

7  同月中 同区正保町七丁目一〇六番地 有喜合荘アパート五号 加藤喜美子 現在担任

8  同月三〇日ころ 同区泰明町二丁目一三番地 土古東市営住宅一〇区四号 鵜川時子 同

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